本を出したいと考える人から、非常に多く寄せられる相談のひとつに「ペンネームで出版することは可能か?」というものがあります。
特に会社勤めをしている人からの問い合わせが多く、「本を出したいが、本名を出すことで職場に知られてしまうのではないか」と不安を感じているようです。
副業規定のある企業に勤めていたり、プライベートと仕事をきっちり分けたいと考えていたりする人にとっては、できることならペンネームで出版したいという希望は、よく分かります。
実際、ペンネームを使って本を出版すること自体は可能です。
出版社も、商業的に問題がなければペンネームでの出版を許容しているケースが多く、名前を隠すことが絶対に不可能というわけではありません。
ただし、ここで考えておくべき大事なポイントがあります。
それは、出版企画を立てるうえで、あなた自身に「何が求められているのか」という視点です。
具体的には、あなたがその本の著者としてふさわしい人物であることを、「資格」や「実績」という形で示せるかどうかが問われます。
資格とは、その分野に関する専門的な知識やスキルの裏付けです。
たとえば、心理学の本を書くならば、公認心理師や臨床心理士の資格を持っていることは大きな説得材料になります。
一方で、実績とは、その分野で実際に経験や成果を積んできたことです。
たとえば、「元商社マンが語る交渉術」のような本では、その著者が本当に商社に勤めていたのか、どんな経験をしてきたのかが、読者にとって信頼できる材料となります。
このとき、重要になるのが「資格」と「実績」の違いです。
資格はあくまでもスキルの証明であり、出版社の編集者を納得させることができれば、ペンネームでの出版も現実的です。
しかし、実績を軸にした企画となると、事情は変わってきます。
実績は、読者にとって「この人だからこそ書ける」と納得させるための証拠です。
したがって、「誰が書いているのか」が非常に重要になります。
つまり、本名を出さないことによって実績の信憑性が揺らいでしまう可能性があるのです。
極端な例ですが、「元○○が語る〜」というテーマで本を出したいとき、読者や出版社は「その人が本当に元○○なのか?」という事実確認を必要とします。
このような場合、ペンネームでの出版では、企画そのものが成り立たない可能性が高くなります。
ペンネームを使うというのは、ある意味では新しい人格を作ることに等しい行為です。
つまり、その名前で著者プロフィールを構築していかなければなりません。
ペンネームでの活動歴や信用を積み重ねていない場合、説得力に欠ける著者として見られてしまい、企画自体が採用されにくくなるのです。
特に会社員の人が出したいと考える企画の多くは、「その会社での経験」や「現在の職業ならではの知見」に基づく内容であることが多いため、本人の経歴や所属が企画の根幹になっているケースが目立ちます。
こうした企画の場合、ペンネームでの出版は、出版社にとっても読者にとっても説得力を持たせるのが難しくなるということです。
とはいえ、すべての出版企画が本名でなければ成立しないというわけではありません。
テーマによっては、資格に基づいた知識提供型の内容であれば、ペンネームでも十分に企画が通ることもあります。
また、匿名性を保ちたい場合には、出版社と相談のうえ、実名は非公開にしても一定の実績を証明する方法が取れる場合もあります。
出版の形態や契約内容、書店での扱い方にもよるので、まずは希望する内容を出版社や編集者に正直に相談してみましょう。