初めて出版を目指す方にとって、「原稿の提出」と聞くと、完成した文章ファイルを送ることだと考えるのが一般的かもしれません。
実際、出版が決まって編集者から「原稿の締め切りは〇月〇日です」と言われたとき、多くの著者が文章を書き終えたタイミングで「原稿ができましたので、お送りします。」といった内容のメールを送ってくるのが現実です。
で、その後、「あれ? 画像や図版は無しですか?」という問い合わせが入り、慌てて用意するということはよくある話だったりします。
もちろん、初めての出版であれば仕方ありませんが、これは一般的な認識と出版業界特有の認識のズレだったりします。
同じ「原稿」という言葉を使っているだけに事前に察するのは難しいでしょう。
出版業界において「原稿」とは、単に文章だけを指すのではなく、その書籍を構成するすべての素材、つまり文章に加えて画像、図版、表、写真、場合によっては注釈用の補足資料なども含まれる総合的なコンテンツのことを意味します。
なので、締め切り日に「文章は完成していますが、画像はまだこれからです」と言われてしまうと、編集者としては困惑してしまうはずです。
というのも、編集作業というのは、ただ誤字脱字を修正するだけではありません。
文章を読みながら、その内容の整合性や論理の流れ、日本語表現の適切さを確認し、同時に画像や図版と文章が正しく対応しているかをチェックしながら、最終的に誌面としてどのように構成するかを検討していく、非常に繊細で複雑な作業です。
そのため、画像や図版が後から届くという状態では、せっかく進めた編集作業を止めて待つしかない、あるいは後から二度手間で全体を再チェックする必要が生じてしまいます。
実際には、編集者は限られたスケジュールの中で複数の案件を同時進行していますから、こうした「後出し」の素材に対応できない、もしくはチェックが雑になることも…。
もちろん、著者の側には悪意はないでしょうし、「文章は書き終わったから原稿は完成」と思い込んでいるだけかもしれません。
ですが、その小さな誤解が編集者との信頼関係に影を落とし、今後の制作スケジュールに大きな影響を与えることもあるのです。
そして、その結果、「この著者は締め切りを守らなかった」という印象を持たれてしまう可能性も出てきます。
締め切りをきちんと守るということは、単に自分の責任を果たすだけではなく、編集者やデザイナー、印刷所など、多くの人たちの作業をスムーズに進めるための基本的なマナーでもあります。
せっかく素晴らしい内容を書き上げても、素材の提出が遅れたことで出版スケジュールがずれ込んだり、信頼を損ねてしまっては非常にもったいないですよね。
この認識を持つことが、より良い本を完成させる第一歩として、とても大切なのです。