書籍の出版において、原稿を書き終えた時点で「完成した」と思ってしまう人が少なくありません。
しかし、実際のところ、原稿は著者ひとりの力で仕上がるものではなく、その後に多くの編集者の目を通して、何度も修正が加えられ、ようやく一冊の本として形になります。
つまり、世に出ている書籍の多くは、著者だけの知見で書き上げられたものなのではなく、編集者たちの知見やマーケティング視点なども反映された、商品としての完成形なのです。
はじめて出版を経験した人の中には、自分が提出した原稿と完成した書籍の原稿との違いに驚かれた人もいらっしゃいます。
場合によっては、構成が大幅に変わっていたり、表現がまるごと書き直されていたりと、自分の文章の原型があまり残っていないケースすらあります。
逆に、文章構成や論理の流れが洗練されており、編集の手がほとんど入らなかったという著者もいるかもしれません。
出版の世界では、編集者にとって「手のかからない著者」は非常に貴重な存在です。
文章がわかりやすく、構成も整っていて、大幅な修正を必要としない著者に対しては、販売面で多少不安があったとしても、編集者の側で「売れるか売れないか」の判断が甘くなる傾向があります。
つまり、編集の労力が少ない著者は、それだけで次のチャンスを得やすくなるのです。
ここで重要なのは、出版された本を読者目線で眺めて満足してしまうのではなく、自分自身が提出した原稿と完成品をしっかり見比べてほしい、という点です。
どこが修正され、なぜそのように変更されたのか。
その違いを丁寧に確認することで、著者としての文章力や構成力を客観的に捉え、次に活かすことができます。
ぱっと見では分からなくても、言い回しや接続詞の位置、語尾のトーンなど、細かな部分に編集の意図が込められていることが多いのです。
特に「二冊目の出版が難しい」と感じている人にとって、この作業は極めて重要です。
なぜなら、仮に初版が売れたとしても、次の出版オファーが前と同じ出版社から来ない場合、それは編集者が「また一緒に仕事をしたい」と思っていない可能性があります。
もし編集作業が非常に大変だった場合、「この著者は大変だから、もういい」と判断されることもあるかもしれません。
逆に、著者として文章を洗練させていけば、編集者は「またこの人と組みたい」と思ってくれるようになるということです。
それが継続的な出版のチャンスを生む鍵になります。
一冊目は勢いと運で出版に至ることもあります。
しかし、二冊目以降は実力と信頼が問われます。
初回の出版時に、編集者の修正にどれだけ助けられていたかに気づけないと、知らず知らずのうちに二冊目以降を出版するのが難しい人になってしまうかもしれません。
編集者は著者を裏で支えつつも、プロとして厳しく見ています。
「修正が多くて疲れた」「この著者にはもう声をかけたくない」と感じさせてしまえば、それが次のチャンスを遠ざける理由になるのです。
だからこそ、書籍が完成した後こそ、真剣に自分の文章と向き合うべきタイミングなのです。
出版後、自分の本を手に取って満足する気持ちは自然なことですが、そこで終わってはいけません。
何度も読み返し、自分の成長につなげること。
それを積み重ねることで、「二冊目の出版は難しい」という壁を、着実に越えていくことができるようになります。
繰り返しになりますが、出版はゴールではなく、スタートです。
慢心せず、文章を磨き続けていく姿勢が、信頼される著者への道を拓いていきましょう。