文章を書く力、すなわち「文章力」は、一朝一夕に身につくものではありません。
そして、そもそも文章に「正解」があるわけではないという事実を、まずはしっかり理解しておく必要があります。
文章は、書き手の思いや考えを、いかにして他者に伝えるかという営みそのものであり、唯一無二の答えがあるようなものではありません。
それでもなお、多くの人が「文章力を上達させたい」と感じるのは、やはり「伝わる文章」が書けるようになりたいからではないでしょうか。
世の中には、文章の書き方に関する本やブログ、講座などが数多く存在します。
論理構成や表現技法、リズムや語彙選びに関する知見を提供してくれるものも多く、それぞれが一定の有益性は持っているでしょう。
しかし、そういった技術的な要素に目を向けすぎると、かえって「自分らしい文章」が書けなくなってしまうこともあります。
テクニックに頼りすぎると、どこか借り物のような、表面的な文章になってしまいがちです。
文章力の向上を本当に目指すなら、まず取り組むべきは「文章の基本」を正しく理解することです。
この基本というのは、難しい技法や装飾的な言い回しではなく、「論理的に、明確に、そして誠実に伝える」ための土台と思ってください。
そして、その基本を学ぶために、私自身が強くおすすめしたい本があります。
その書籍は、本多勝一氏の『日本語の作文技術』および『実戦・日本語の作文技術』です。
- 日本語の作文技術 (朝日文庫)/本多 勝一
- ¥567
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- 実戦・日本語の作文技術 (朝日文庫)/本多 勝一
- ¥588
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私がこの本と出会ったのは、今から20年以上前、出版業界に足を踏み入れたばかりの頃でした。
先輩から「これだけは読んでおけ」と手渡されたこの一冊は、まさに「文章とは何か」「どう書くべきか」を深く教えてくれる名著でした。
実際、かつては多くの出版社で、新入社員がまずこの本を読むことが通例となっていたほど、業界では高い評価を受けています。
この本が他のハウツー本と大きく異なるのは、表面的なテクニックではなく、書き手としてどう考えるべきか、どう言葉を選び、どう文を構成するかといった「日本語を書く姿勢」そのものを学ばせてくれる点にあります。
文章力を本質的に鍛えるとは、こうした視点を持ち、自分の言葉で正確に思考を形にすることに他なりません。
もちろん、技術的なトレーニングも一定の効果はあります。
ですが、文章力とは、最終的には「自分の伝えたいことを、自分の言葉で、相手に伝わるように届ける」ことに尽きます。
そのためには、まず基本をきちんと身につけることが不可欠であり、そこに自分の感性や経験が自然に加わることで、個性ある文章が生まれてくるのです。
ですので、文章を上達させたいと思っている人や、おすすめの文章技術本を探している人には、まずはこの2冊を手に取っていただきたいと思います。
派手なテクニックは載っていませんが、確実にあなたの文章力の土台を支えてくれるでしょう。