本を出版する場合、一人で全てを執筆する以外に「共著」という方法を選ぶことがあります。
共著とは、二人以上で協力して一冊の本を作り上げる方法であり、出版業界では決して珍しいものではありません。
しかし、この共著という方法には、多くのメリットと同時に、見落としがちな注意点やデメリットも存在します。
出版を検討している方が共著を選ぶ場合は、これらを正しく理解しておくことが非常に重要です。

まず、共著には企画の段階での大きな利点があります。
たとえば、相手が自分より知名度の高い著者であれば、その名前を企画書に併記することで出版社の関心を引きやすくなり、企画が通りやすくなる傾向があります。
逆に、自分より無名な人と組む場合は、その人を引き上げる立場になり、将来的な人間関係や恩の売り方という観点でプラスになる場合もあります。
ただし、共著では執筆部分の担当が明確に記されないことが多いため、本来は自分のノウハウなのに読者からは共著者の知識だと誤解されることもあります。
この点は共著ならではの注意点といえるでしょう。
次に、執筆期間中のメリットとデメリットです。
共著の場合、それぞれの著者が原稿を分担して執筆するため、一人で書くよりも作業時間が短縮できるのは大きな魅力かもしれません。
しかし、複数人で書くからこそ、文章の文体や論調の統一には注意が必要です。
初期段階でしっかりと執筆方針を擦り合わせておかないと、「相手が書いてくれるだろう」とお互いに思い込み、結果として重要な章が抜け落ちたり、内容に重複やズレが生じたりするリスクがあります。
また、共著者の進捗が見えにくいため、信頼関係が試される場面も多く、相手との連携不足がトラブルの原因になることもあるでしょう。
さらに、印税や原稿料に関する取り決めも重要な注意点です。
共著では、基本的に印税は著者間で分配されるため、一人で出版する場合に比べて受け取る金額は減少します。
書いた分量に応じて分ける方法が一般的ですが、後からトラブルにならないように契約段階で明確にしておくことが不可欠です。
また、原稿の提出期限を守る責任感や販促活動への意欲など、メンタル面でも共著には特有の難しさがあります。
相手に遠慮して強く言えなかったり、逆に相手に依存してしまったりといったケースは意外と多いものです。
出版後のメリットとデメリットにも目を向けてみましょう。
知名度の高い共著者と組んだ場合には、その名前が販促に効果を発揮して売上が伸びるケースがありますが、逆に共著によって読者から「どちらが主導しているのかわからない」と見られ、売上が伸び悩むケースもあります。
さらに、販促活動では「相手がやってくれるだろう」という意識が働きやすく、結果として双方とも十分な宣伝を行わずに終わってしまうことも珍しくありません。
ただし、共著には売上以外にも大きなメリットがあります。
たとえば、自分一人では出版が難しい専門分野の内容を共著によって実現できる場合、その分野でのブランディングを高める事が可能です。
冊数を増やして実績を積みたい人にとっても、共著は効率的な方法になり得ます。
しかし、その一方で、自分のオリジナルノウハウが共著者に吸収され、ブランディング上で主導権を奪われてしまうリスクもあるため、慎重な対応が必要です。
最後に、出版後の増刷や改訂に関しても共著ならではの注意点があります。
共著本を増刷する際には、共著者全員の許可が必要となるため、一人でも拒否すれば増刷ができなくなるのです。
その場合は、相手が執筆した部分をすべて書き直して改訂版として出す必要が生じることもあります。
こうしたリスクを避けるためにも、出版前の契約や信頼関係の構築が欠かせません。
このように、出版における共著には多くのメリットがある一方で、注意点やデメリットも少なくありません。
著作権や印税などの権利関係、信頼関係の維持、執筆や販促の分担、ブランディング戦略といった複数の観点から、事前に十分な検討と準備を行うことが、共著を成功させるための鍵となります。
出版は一度始まれば途中で簡単に方向転換できるものではなく、共著者とは最初から最後まで運命共同体となる覚悟が必要です。
慎重に判断し、互いの強みを活かす形で進めていくことが重要です。