出版社は、その企画が売れると思って、書籍を発刊します。

書籍を発刊するためには300万円以上の資金を投入しなければなりません。

そして、書籍が売れた売上で、投入した資金を回収し、さらに利益を出さなければ、出版社は潰れてしまいます。

 

一方、著者の多くは、自分の自己実現のために書籍の出版を目指します。

自分のブランディングであったり、次の活動への布石であることも少なくありません。

書籍という形に残る形態で世に出すことが重要視され、その売れ行きへの意識よりも書籍を出版すること、永続的に形として残る作品としての意識を大切にしている感があります。

 

 

かつて、書籍は黙っていてもある程度、売れる時代がありました。

そのため、利益をもたらしてくれる著者や売れる企画ホルダーは、出版社にとってはありがたい存在となり、著者を大切にする時代が続きました。

 

しかし、その後、出版不況は続き、利益を追求するためには、出版社がいろいろ工夫しなくてはならなくなります。

もちろん、企画進行の敷居は高くなり、より売れる企画にするために出版社側が企画に口を出すのは当たり前。

逆に言えば、その出版社とのすり合わせで、出版社側の意見を受け入れず、自分の我を押し通す著者は、よほどの企画でないと発刊は厳しくなってきました。

 

多くの出版社は、より利益率の高い本を出版するために、次の二つの方向で口を出してきます。

  • より売れる工夫
  • より原価を抑える工夫

書名や帯は前者、紙の質などの仕様は後者に該当する項目と言えるでしょう。

 

基本的に、書名や帯、仕様は最終決定権は出版社にあります。

出版社の編集者は、上記の二つの方向でより利益率の高い本にするために思考を張り巡らせ、より売れそうな書名や原価の安い紙、色数を減らす提案などをしてきます。

 

著者としては、自分のブランディングや次の活動への布石として考えると、できるだけ見栄えのいい書籍にしたいという気持ちになりがちです。

 

そのため、出版社と著者との衝突が絶えません。

 

著者としての気持ちは、十二分に理解できるのですが、出版社からすると「あなたのために書籍を発刊するのではありませんし、資金を投入するのは弊社である以上、弊社で売れると思えないのであれば、発刊は中止します」と思うようです(これは実際に言われました)。

これは、昔ながらの意識を継続している著者と厳しい現状に変わらざるを得ない出版社の意識のズレのようにも思えます(実際は、昔を知らない著者のほうが多いので、違うとは思いますが…)。

 

ただ、出版社もたんに我を通したいわけではありません。

できるだけ円満に、両者が納得できる形で、売れる書籍を作りたいということが理想です。

なので、著者の意向をできるだけ反映しようとはしてくれます。

とはいえ、社内で闘わなくてはならないのは編集者であり、その闘う理由が著者のブランディングや次の活動への布石のためであっては、やりきれません。

もし、少しでも出版する本に自分の我を通したいと思うのであれば、それは著者のブランディングや次の活動への布石のためではなく、その本が少しでも売れるため、自分がより多く売るための提案として投げかけるようにしてみてください。

書名や仕様も、より売れるであろう根拠をしっかりと説明すれば、多少、投入する資金が増えたとしても、ちゃんと聞いてくれるはずです。

 

いずれにしても、今のご時世、出版社が著者の企画に投資をしているんだということを理解して交渉することが重要です。

 

最後に、これは取次の方の言葉ですが、「良い書籍と売れる書籍は違います。そして、売れる書籍こそが本当に良い書籍なのです。」と聞いたことがあります。

これは、決して利益が出るから良い書籍と言っているわけではありません。

多くの人に読んでもらえてこそ良い書籍だという意味です。

逆に、どんなに素晴らしい内容であっても、誰にも読んでもらえないのであれば、その書籍の存在意義はありません。

是非、このコトを意識して出版社との交渉に挑んでいただけたらと思います。