• 「この出版企画は、類書がないから通るかもしれない」
  • 「誰も書いていないテーマなら、編集者の目に留まるのではないか」
  • 「出版企画はニッチなほうが差別化できるはず」

 

出版の相談を受けていると、こうした言葉をよく耳にします。

長い時間をかけて見つけたテーマだからこそ、「ほかにないこと」を強みにしたい。

その気持ちは、とてもよく分かります。

 

 

出版企画に類書がないからといって、その企画に価値がないわけではありません。

出版企画がニッチだから、最初から諦める必要もありません。

ただし、商業出版では、「誰も書いていない」という事実だけで企画の強さが決まるわけではないのです。

 

以前、類書がまったく見つからない企画を持ち込まれた方がいました。

ご本人には長年の経験があり、内容もよく考えられていました。

ところが、「この本は誰が、どんな場面で読みますか」と尋ねると、答えが曖昧になってしまいました。

 

問題は、テーマが狭かったことではありません。

その本を必要とする読者の姿が、まだはっきり見えていなかったことです。

 

編集者が最初に考えるのは、企画が珍しいかどうかよりも、「その本を読みたい人がどれくらいいるか」です。

出版社は、企画を本にするために、編集、印刷、営業、宣伝などへ大きなお金と時間をかけます。

だからこそ、「面白いか」だけでなく、「誰に、どのように届けるか」まで考えます。

 

類書は、邪魔な競合とは限りません。

同じ分野の本が読まれていれば、「この悩みに答えを求めている人がいる」という手がかりになります。

つまり、類書は市場があることを知らせてくれる存在でもあるのです。

 

反対に、出版企画に類書がない場合は、読者がいることを別の方法で示す必要があります。

たとえば、同じ相談を何度も受けている、関連する講座に人が集まっている、ブログやSNSの投稿に反応がある、検索されている言葉があるといった材料です。

小さな実績でも構いません。

読者が実際に困っていることが伝われば、企画の見え方は変わります。

 

「出版企画はニッチなほうがよい」という考えも、間違いではありません。

大勢ではなくても、強い悩みを持ち、解決策を探している人がはっきり存在するなら、ニッチなテーマは大きな強みになります。

 

ただし、読者が明確でないまま範囲だけを狭くすると、それはニッチではなく、単に届く相手が少ない企画になってしまいます。

大切なのは、狭さではなく、悩みの深さです。

 

企画書を書く前に、一度書店へ行ってみてください。

自分の本がどの棚に並ぶのか、その棚の前にどんな人が立つのかを想像します。

そして、今ある本ではまだ十分に解決できていない悩みを探します。

似た本が複数あっても、切り口や対象読者が違えば、十分に差別化できます。

 

これは企画を捨てる作業ではありません。

自分の経験を、読者に届く形へ整えるための安全な挑戦です。

最初から完璧に答えられなくても大丈夫です。

むしろ、ここを丁寧に考えることで、企画の魅力は少しずつ強くなっていきます。

 

誰も書いていない出版企画の中に、本当に新しい可能性が眠っていることもあります。

ただし、その可能性は「誰もやっていないこと」ではなく、「まだ十分に助けられていない人」を見つけたときに生まれます。

 

焦る必要はありません。

類書と読者を丁寧に確かめながら、あなたの経験を必要としている人に届く一冊へ、一緒に育てていきましょう。